Netflixで配信中の韓国ドラマ『100日の嘘』(原題:백일의 거짓말/100 Days of Deception)。キム・ユジョンとパク・ジニョン(GOT7)が主演する、1932年の京城(現在のソウル)が舞台のスパイロマンスです。
第2話が配信されると、SNSでは「このシーンの元ネタは堤岩里事件では?」「“春が来る”というセリフの意味が重い」など、史実に関する投稿が目立つようになりました。
この記事では、視聴者が注目した場面ごとに、モデルになったと考えられる事件や人物、1932年の歴史背景を整理します。日本の学校ではあまり習わない「日帝時代」の朝鮮の姿と、ドラマのあとに訪ねたいソウルの史跡もまとめました。
※第1〜2話の内容に触れています。登場人物や団体は基本的に架空の設定です。本記事で挙げる「モデル」は、史実と重なる点を筆者が整理したもので、制作陣が公式に発表したものではありません。
『100日の嘘』とは?作品情報とあらすじ
| タイトル | 100日の嘘(백일의 거짓말) |
|---|---|
| 配信 | Netflix(2026年10月10日〜、毎週土日更新) |
| 話数 | 全16話(tvN開局20周年特別企画) |
| 舞台 | 1932年、日本統治下の京城(現ソウル) |
| 主なキャスト | キム・ユジョン、パク・ジニョン(GOT7)、キム・ヒョンジュ、イ・ムセン、チン・ソンギュ |
京城一のスリ、イ・ガギョン(キム・ユジョン)は、アメリカへ渡る資金を手に入れるため、偽の身分「クム・ソヒ」として朝鮮総督府の通訳生に潜り込みます。そこで出会うのが、政務総監の養子でエリート通訳官のサトウ・ヒデオ(朝鮮名キム・テウン/パク・ジニョン)です。
その裏では、抗日組織「救国団」のスナイパーユ・ソラン(キム・ヒョンジュ)と、朝鮮系アメリカ人特派員のユ・フィリップ(イ・ムセン)が偽装夫婦となり、政務総監サトウ・シンイチ(チン・ソンギュ)の暗殺を狙っています。
視聴者がSNSで話題にした「史実」ポイント
① ソランの復讐の原点「13年前の虐殺」
第2話で、ソランと夫のクム・ソクジュンの過去が明かされます。13年前、村で万歳運動(独立運動)を主導したソクジュンは日本軍に捕らえられ、仲間の名前を言わなかったために、目の前で娘のソヒを殺されます。村人たちも虐殺され、その責任者が現在の政務総監サトウ・シンイチでした。
物語の舞台は1932年なので、13年前は1919年です。三・一独立運動が起きた年にあたります。劇中で語られる村の名前は「ケアムリ(계암리)」ですが、韓国メディアは実在の「堤岩里(チェアムリ)事件」がモチーフだと報じています。
この場面をめぐっては、日本の視聴者から「何を根拠に日本軍をこう描くのか」という反発の声も上がりました。韓国のYouTubeでは、それに当時の写真で答える動画が作られています。日本ではあまり知られていない事件だからこそ、議論になったといえます。
② 「朝鮮にも、もうすぐ春が来ます」
第1話では、総督府の通訳官スズキ(キム・ドヒョン)が、実は救国団の密偵だったことが明かされます。視聴者の間で特に話題になったのが、彼の「朝鮮は一年中冬なのか?」という問いと、「春が来る」という言葉です。
SNSでは、「春」を朝鮮の独立と重ねて読む考察が広がりました。ヒデオがすぐに答えられない一方で、スズキはすっと答えます。この対比に、二人の立場の違いが表れていると注目する投稿もありました。
③ 政務総監の日本語がリアルすぎる
悪役のサトウ・シンイチを演じるチン・ソンギュは、セリフのほとんどが日本語です。日本で2カ月過ごし、1日7時間台本を練習して役に臨んだといいます。日本の視聴者からも「日本語上手すぎて顎外れた」と驚く声が上がりました。
ドラマのモデル・元ネタになった事件と人物
堤岩里事件(1919年4月15日)
ソランの過去のモチーフとされるのが堤岩里(ていがんり)事件です。三・一独立運動のさなか、京畿道水原郡(現在の華城市)の堤岩里で起きました。
- 近くの発安(パラン)の市場で万歳デモがあり、日本人巡査が死亡したことが発端とされます。
- 4月15日、日本軍の部隊が村の男性たちを教会に集め、銃撃したうえで教会と民家に火を放ちました。
- 韓国側の記録では、堤岩里で23人、隣の古州里で6人の計29人が犠牲になったとされています。犠牲者の多くは順興安氏の一族で、キリスト教徒と天道教徒でした。
- カナダ人宣教師のスコフィールド博士らが現地を訪れて写真と報告を残し、AP通信の記者も報じたことで、事件は世界に知られました。
日本側でも、指揮した中尉が軍法会議にかけられています(結果は無罪)。現在、現地には堤岩里3・1運動殉国記念館があります。
朝鮮系アメリカ人の特派員フィリップという人物も、外国人の記者や宣教師が植民地の実態を世界に伝えたという史実と重なります。
救国団と、実在した抗日組織
劇中の「救国団」は架空の組織です。ただ、1932年前後には、要人の暗殺や爆弾闘争を行う組織が実際に活動していました。
- 韓人愛国団:上海の大韓民国臨時政府の金九(キム・グ)が1931年に組織しました。1932年1月の李奉昌(イ・ボンチャン)による昭和天皇への手榴弾投擲(桜田門事件)と、同年4月の尹奉吉(ユン・ボンギル)による上海虹口公園爆弾事件が、この団体によるものです。
- 義烈団:1919年に結成されました。1921年には、メンバーの金益相が朝鮮総督府に爆弾を投げ込む事件も起きています。
総督府の中枢を狙う救国団には、こうした組織の姿が重なります。
スナイパーのソランと、女性独立運動家・南滋賢
家族を奪われ、銃を手に総督府の要人を狙う女性。ソランを見て、実在の独立運動家南滋賢(ナム・ジャヒョン)を思い浮かべた人もいるかもしれません。
南滋賢は義兵だった夫を亡くしたあと、満州で独立運動に身を投じました。1926年には京城で斎藤実総督の暗殺を計画しています。1932年には、満州事変を調査する国際連盟リットン調査団に、指を切って書いた血書を送ろうとしました。1933年に日本の要人の暗殺を図って逮捕され、獄中で絶食の末に亡くなりました。映画『暗殺』のヒロインのモデルともいわれる人物です。
京城駅と、総督を狙った爆弾事件
ドラマの冒頭は、主要人物が京城駅に集まる場面で始まります。この駅の前身である南大門駅では、1919年9月2日、64歳の独立運動家・姜宇奎(カン・ウギュ)が、着任したばかりの斎藤実総督に爆弾を投げつける事件が起きています。総督は無事でしたが、周囲の多くの人が負傷しました。現在のソウル駅前には姜宇奎の銅像が立っています。
政務総監サトウ・シンイチは実在する?
政務総監は朝鮮総督に次ぐ、総督府のナンバー2の役職です。1932年当時の総督は宇垣一成、政務総監は今井田清徳でした。サトウ・シンイチは架空の人物で、特定の個人がモデルだとは発表されていません。
ヒデオの日本名と「創氏改名」
朝鮮人の名前に日本式の氏を名乗らせた「創氏改名」は1940年に始まりました。そのため、1932年の時点では制度化されていません。ヒデオが「サトウ・ヒデオ」を名乗るのは、日本人の養子になったという彼個人の事情によるもので、当時の朝鮮人一般の状況とは異なります。
1932年はどんな年?ドラマの時代背景年表
| 1910年 | 韓国併合。朝鮮総督府が置かれ、日本による統治が始まる |
|---|---|
| 1919年3月 | 三・一独立運動が始まる。4月に上海で大韓民国臨時政府が成立し、堤岩里事件が起きる |
| 1919年9月 | 姜宇奎が斎藤実総督に爆弾を投げる(南大門駅) |
| 1925年 | 京城駅の新駅舎が完成(現在の「文化駅ソウル284」) |
| 1931年9月 | 満州事変 |
| 1932年1月 | 李奉昌が東京・桜田門で天皇の車列に手榴弾を投げる |
| 1932年3月 | 満州国の建国が宣言される |
| 1932年4月 | 尹奉吉の上海虹口公園爆弾事件 |
| 1940年 | 創氏改名が実施される |
| 1945年8月 | 日本の敗戦により植民地支配が終わる(韓国では「光復」) |
ドラマの1932年は、満州事変をきっかけに日本の大陸進出が本格化し、独立運動も武力闘争へと激しさを増していった時期にあたります。
日本人があまり知らない「日帝時代」の京城
華やかなモダン都市の顔
1930年代の京城には、路面電車が走り、三越京城店(1930年開店)などの百貨店、映画館、カフェが並んでいました。洋装の「モダンボーイ」「モダンガール」も街を歩いていました。ドラマの華やかな美術や衣装は、こうした京城の姿を再現しています。
日本人の街と朝鮮人の街
一方で、京城は二つに分かれた都市でもありました。清渓川の南側、本町(現在の明洞・忠武路あたり)は日本人が多く住む「南村」です。北側の鍾路を中心とする朝鮮人の街「北村」とは、街並みにも暮らしぶりにも差がありました。華やかな街の裏で貧しさの中を生きるスリのガギョンは、その格差を映す人物といえます。
韓国では「日帝強占期」と呼ばれる
日本では「日本統治時代」と呼ばれることが多いこの時代を、韓国では「日帝強占期(日本帝国による強制占領の時期)」と呼びます。同じ35年間でも、呼び方からして受け止め方が大きく違います。韓国ドラマを見るうえで、知っておきたい視点です。
ドラマのあとに訪ねたい!ソウルと近郊の史跡
- 文化駅ソウル284(旧ソウル駅舎):1925年完成の京城駅舎。駅前には姜宇奎の銅像があります。
- 西大門刑務所歴史館:1908年に建てられた刑務所の跡で、多くの独立運動家が収監されました。
- 孝昌公園:李奉昌・尹奉吉・白貞基の三義士の墓と、金九の墓があります。
- 梅軒尹奉吉義士記念館:良才市民の森にある記念館です。
- 新世界百貨店本店:旧三越京城店の建物が今も使われています。
- 堤岩里3・1運動殉国記念館(京畿道華城市):堤岩里事件の現場に建つ記念館です。
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まとめ:『100日の嘘』は史実を知るとさらに深く刺さる
『100日の嘘』の登場人物や救国団は架空の存在です。それでも、ソランの悲劇の原点にある堤岩里事件や、1932年に相次いだ独立運動家の闘いなど、物語の土台には実際の歴史があります。
史実を知ってから見ると、「春が来る」という一言や、日本語で話す朝鮮人通訳官ヒデオの複雑な立場が、違って見えてくるはずです。ドラマをきっかけに、ソウル旅行で当時の痕跡をたどってみてはいかがでしょうか。
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※ドラマの最新話(第3話以降)の展開に合わせて、内容を随時追記します。
参考:ナビコン・ニュース、韓国TVドラマガイドONLINE、WoW!Korea、マネートゥデイ、オーマイスター ほか
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